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Mt.6 インタビュー第2回

山田 桂一郎
内閣府、国土交通省、農林水産省観光カリスマ、
Mt.6環境政策・観光CS(顧客満足度推進)推進顧問
「旅の途上」

Mt.6がリゾート文化の創造と継承を誓い結成してから10年。設立当初より、主にMt.6のサービス向上や環境政策を専門にアドバイザーとして関わってこられた観光カリスマの山田氏に、リゾートへの思いを語っていただきました。

取材・文:時見宗和 写真:樽川智亜希

 最近、旅が確認作業のようになってきた。「ああこれ、インターネットで見たのと同じだ」「あれ、雑誌に出ていた」。現地に行ってひととおりチェックしたら、おみやげを証拠品として買ってそれで終了。もしもそれが旅であり、観光であるなら、やがては「そんなの行かなくたってわかるよ」となってしまうのではないか。  シロウトの疑問をおそるおそる “観光カリスマ”にぶつける。
即答よりも早い回答。

愛知 和男

 「旅の魅力としてよく“非日常”という言葉が挙げられますが、“非日常”はディズニーランドやユニバーサルスタジオなどに行くこと。旅は“非日常”ではなく“異日常”、日常とは異なる世界に行くことだと思います」
“異日常”、具体的にはどういうことなのでしょう。

「自分が生きている日常とは異なる日常、つまり、その土地ならではのライフスタイルがあること、その土地ならではの豊かさがあるということです。観光の仕組みはいずれかならず飽きられます。だからつねに変えていかなければなりません。だけど、ライフスタイルに豊かさがあると、飽きられない。住民の方がニコニコと楽しそうに暮らしている地域ならば、訪れた人に感動、共感が生まれ、またもどってきたいと思ってもらえるはずです。」

 山田桂一郎。内閣府、国土交通省、農林水産省が認定する観光カリスマ。カリスマ名称は “世界のトップレベルの観光ノウハウを各地にひろめるカリスマ”。
 凡人である本稿筆者からすれば、思わず頭を下げたくなるような肩書きだが、実物を前にした瞬間、肩の力が抜けた。涼しげな風貌。ややトーンが高い声とやさしい口調。どんな質問に対しても、知と理で組み立てられたていねいな回答が返ってくる。
 活動範囲のすべてを挙げると、それだけで本稿は終わってしまうので、重要と思われるものをふたつ挙げる。JTIC SWISS(ツェルマット・日本語インフォメーションセンター)代表。そしてマウントシックス環境政策及びCS(顧客満足度推進)顧問。

ニコニコとした笑顔を醸成するものはなんでしょう。
「住んでいる場所に対するプライドです。」
プライドを喚起するには?
「第一に自分たちをよく知ること。たとえば、まだ注目されなかったころ、屋久島の人々にとって、屋久杉はただの森でした。地元の人ほど、自分たちの宝に気づいていないものです。だけど、これは自分たちだけの宝だというものに気づけば、それが自信になり、プライドになり、やがて地域全体に根ざしていく。それは、その地域ならではの宝や豊かさに気付くこと。」
気づかせ、笑顔に育てるところに、山田さんの役割がある。
「はい。」
率直に言って、努力対効果がおそろしく低い仕事ですね。
「会議場から出て、一対一で話をしなければならないところのほうが多いので、たしかに効率はよくありません。(笑) でも、実際に話をすれば、内情が見えてきますし、内情を踏まえて話をすれば受け入れてもらえる。対話を重ね、地域の人達と共に行動を続けるうちに、あそこはだめだと言われていた地域が、早ければ半年ぐらい通ううちにガラリと変わって、観光客の数が伸びる。時間がかかることが多いですが、関わっているさまざまな場所に確実な変化が出ています。」

 一対一で話し合うために現場に向かい、もどってきたその足で国に働きかける。
 山田はいつも旅の途上だ。
 一年の半分をツェルマット、半分を日本で過ごす。ツェルマットには自宅はあるが、日本に住所はない。もっとも、旅の連続だから、布団を温めている暇はない。昨年、一年間のフライト数は国際線、日本国内線合わせて約170回。以前は、もうすこし少なかったが、それは、今や消える一方の夜行列車を使っていたから。夜行列車は基本的に貨物列車を改造したものだから、止まるときと動き出すときに、「ガターン、ガガガガッ、ドッカーン」と揺れてかならず目が覚めた。
 下世話な話。無理やり聞き出したところ、スイスと日本の往復の飛行機代は基本的に自前。仕事と仕事の合間の移動と宿泊も自前。じゃらん・ポイントは溜まる一方で、現在、約12,000ポイント。もちろんこれも無理やり聞き出した話。
 昨日の朝の所在地は弟子屈町。北海道の屈斜路湖がある町だ。弟子屈町から釧路を経由して、東京へ。午後から終日国土交通省。「国として決めたことに対して『中身をこう変えたほうがいい』というようなことを言うので、いやがられるんです。(笑)」

愛知 和男海外から日本に来るスキーヤーが増えてきています。とりわけニセコを歩いていると、まるでオーストラリアにいるような気分になる。この状況についてはどう見ていますか?
「リゾートにとって、もっとも重要なのは何度も足を運んでくれるリピーターを増やすことです。あのオーストラリア人たちが、冬以外の季節にニセコにもどってくるようになれば、リゾートとして成功でしょう。日本人が減る中で、オーストラリア人に買い支えてもらわなければスキー場自体が無くなります。それは悪いことではないと思います。」
なぜ、リピート率を上げるべきだと。
「旅館やホテルの再生事業に携わるときに問題になるのがこの点なのですが、一般的に経営者が重視するのが稼働率。空き部屋を作らないために、料金を下げ、エージェントを介して格安のパッケージ・ツアーを売る。その結果、どんどん経営が苦しくなって、例えばボイラーが壊れた瞬間、修繕費がないために廃業、ということになってしまう。まずは、リピート率を上げなければ実質的な稼働率は上がりません。新規顧客開拓だけでは稼働率は下がります。」
安くしてだれでもいいから来てもらうのではなく、ふたたび来てもらう工夫するべきだと。
「お客様から「こんなものか」と思われたら、もう来てもらえません。事後評価を上げるためには、サービスの商品構成を進化させ、クオリティを上げていかなければならない。日本の観光地で斜陽になったところの多くは、マンネリ化に原因があるんです。」
ウィンター・スポーツに頼っていては現状から脱却できない。
「スキーはすごく楽しいスポーツですが、現在は、それだけではパワーが弱い。いま、日本で一年を通してもっとも多くの観光客が訪れるのは沖縄ですが、スキューバ・リゾートともサーフィン・リゾートともセイリング・リゾートとも呼ばれません。すべてをふくめてマリン・リゾートです。同様に、スキー・リゾートやウインター・リゾートではなく、マウンテン・リゾートであるべきだと思います。マウントシックスこそがこれからのマウンテン・リゾートの理想的なすがたを示すべきでしょう。」

1965年(昭和40年)、山田は三重県の津に生まれた。
男ばかり4人の兄弟の長男だった。
伊勢湾まで歩いて5分。父親の知り合いにヨットのモントリオール五輪代表がいたこともあって、小さいころから海が遊び場。小学校からヨット競技に親しんだ。
家業は食品関係の卸業。山田は数えて七代目にあたったが、跡継ぎを強いられることはなかった。
父親はことあるごとに子どもたちを集めて言った。
「同じ親から生まれても、4人とも顔も違えば、性格も違う。それぞれに自分の色があるのだから、生涯をかけてどのような絵を描くのかよく考えなさい。ただし、どんな色でも混ぜすぎると汚い色になる。そのことを忘れないようにしなさい」。遡れば、山田の旅は、きっとこのときから始まった。
中学、高校、大学と地元のヨットクラブとヨット部に所属。
16歳ですでにオリンピッククラスにもチャレンジを始めていた。
1986年(昭和61年)、プロになるべく大学を休学。オーストラリアに渡る。
「思う存分、ヨットをやって、将来もヨットに関わって食べていきたい」。
だが、勝利は遠く、スポンサーが撤退。
これ以上、オーストラリアでヨットの活動を続けることはむずかしい。あきらめよう。断念した瞬間、新たな水平線が眼前に広がった。
「情報や知識ではなく、ほんとうの豊かさがそこにあった」。
オーストラリアには豊富な資源はあったがG8(主要8ヶ国)ではなかった。けっして裕福な国ではなかったが、「毎日、うらやましいぐらいニコニコと豊かな生活を国民はおくっていた」。人よりいい物を持つことが豊かさだとされていた日本にはない日常がそこにあった。「世界にはいろいろな物の見方や考え方、豊かさがある。自分の足でそれをたしかめたい」。
山田は休学を延長し、ロンドンへの片道切符を手に水平線に向かって旅立った。途中で全財産を盗まれ、地域紛争にまきこまれそうになったが、好奇心はまるで尻込みすることを知らなかった。
ヒッチハイクを続け、人々とのふれ合いを重ねていくなかでうっすらと輪郭が見えてきた“豊かさ”が、ひとつの明確な像となったのはツェルマット(スイス)にたどりついた時だった。
マッターホルンの雄大さにはもちろん目を奪われたが、それよりもおどろかされたのは、ガソリン車の代わりに馬車と電気自動車が走っていることだった。宿泊したユースホステルの支配人に聞けば、それは住民が自分たちで決めたルールであり、のちに法制化されたものだという。
生来の気質なのか、あるいはヨット競技を通じて培われたものなのか、山田は対象にとことんのめりこみながら、同時に、全体の仕組みを客観的に見わたすことができた。
山田はツェルマットに心の底から感心すると同時に、その仕組みに思いをめぐらした。自然や環境保全、自動車乗り入れ禁止を決め、守り、さらには自前の発電所を持ち、社会福祉、医療、教育のありかたまで住民が連携し、協働している。
山間の人口5,600人ほどの町が、どうしてこれほど強く、自立した意志を継続して持ち続けられるのだろうか。
さらに旅を続けながら、山田は将来を思った。
自分を仕組みのどのような場所に置くべきだろうか。
アジアや中東で海外協力隊の人たちに出会うと、現場に引かれたが、現場を支える中間支援組織のような場所も魅力的だった。
日本に戻り、体勢を立て直した山田は、再び海外に渡ることを決める。
コーディネイターとしての自分の可能性を見極めよう。 どこに行こうか。
父親の言葉が頭に浮かんだ。
ずっと海の絵だけを描き続けきた。今度は山に自分の色を塗ってみよう。
山田は迷わず、ツェルマットに向かった。

愛知 和男
ツェルマットをひとことで言うとどのような場所でしょう。
「観光・リゾート地としての理想郷です。土地が限られているために施設的には飽和状態。ホテルの数もベッド数もほぼ同じ状態が続いているのに、売り上げは年々増加している。サービスを向上させ、リピーターを増やし、客単価を引きあげ、売り上げを向上させている。」
夢のような状況を可能にしているものは?
「そこに住む人々の意志です。ひとりひとりが町全体のこと考え、責任を持って自ら決断し、実行している。」
小を捨てて大を取る
「はい。同業他社はたくさんある。明らかにライバル関係にあるところも多い。だけど、みんなで協力して地域全体の売り上げを上げなければ、個の売り上げは上がらない。そういうことをよくわかっています。」
日本の観光地の多くはそうではありませんね。
「“エゴと利害”が障害になっているケースはかなり多いですね。なにかをやろうとすると、そんなことをしたら隣の宿や温泉やスキー場のほうが儲かるのではないかという拒絶反応が先に立ってしまう。」
どうすれば乗りこえられるのでしょう。
「まずは利害をはっきりさせることです。その上でいっしょにやった場合とやらなかった場合の経済効果をくらべる。いっしょにやったほうがぜったい利益が上がるのですが、これまでの日本は、そういう当たり前のことをはっきりさせてこなかった。だから情報交換をせず、反目しあうだけになってしまった。」
まずは、現場に行って、もつれた糸をほどくことから始める。
「地域によって人がちがえば、問題もちがう。だから机の上で考えた仕組みだけで解決しようとするとぜったいに失敗する。現場に足を運び、その土地の人々が責任を持って自ら決断し、実行できる道と地域の本来の豊かさをいっしょに探すよりほかに方法はないと思います。」
目の前のスイッチを入れれば、物事は劇的に好転することがわかっている。だけど、間にガラスがあってスイッチに手が届かない。やむをえず、ぬかるんだ迷路のような回り道に足を踏み入れる。シロウトからはそう見えるのですが。
「たしかに、スイッチは見えているんですけれど。(笑)」
最後にひとつ、教えて下さい。天秤の片方に、いまやっていることのすべての労苦を乗せた場合、もう一方になにを乗せたら釣り合うのでしょう。
「日本の国民生活満足度指数(Life Satisfaction)を世界一にすることです。現在、10点満点中、日本は6.3点で23位。1位はスイス。8点台を出しているのはスイスだけなんです。」
愛知 和男

インタビューを終え、店じまいをしながら聞く。この後の予定は?
涼しげな口調が返ってくる。
「大阪です。明日は近畿運輸局を皮切りに、4件の予定が入っています」

想像しただけで酒場に逃避したくなるような忙しさですね。
「余裕をもってスケジュールを組もうとは思ってはいるんですが、結局、いつもこうなってしまうんです。でも、いまやっていることは、将来、きっと日本国と国民が真の豊かさを体現できるようになるんだと信じてやっています。そして、リタイヤしたあとにやろうと思っている社会貢献的な活動と人材育成事業のネットワークづくりにつながるので、いいかなと」
ふと、口をつく。
感情的になることは? 
思いがけず、知と理の間から熱が吹き出した。
「怒ってますよ、しょっちゅう。それはおかしいんじゃないかって」
山田桂一郎 プロフィール

三重県出身。ツェルマット観光局日本人対応インフォメーション、セールスプロモーション担当を経てJTIC.SWISS(日本語インフォメーションセンター)を設立。現在はその経験を活かし、Mt.6アドバイザー以外にも、「世界のトップレベルの観光ノウハウを各地に広めるカリスマ」として、国内各地の地域振興・再生のコンサルタントとして多方面で活動中。




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